「鋼材が上がった」「銅線の値段が跳ね上がった」「木材もいつになったら落ち着くのか」——建設資材の高騰について現場から頭を抱えている経営者は多いでしょう。しかし「なぜ上がるのか」の構造を理解している会社は少ない。値上がりの背景を把握することで、仕入れのタイミング・代替材の選択・発注者への価格説明が変わります。本記事では、2026年現在に建設業が直面している主要資材——鋼材・銅・木材の値上がり要因を分かりやすく解説します。
鋼材(形鋼・棒鋼・鉄筋)はなぜ上がるのか
建設に使われる鋼材(H形鋼・山形鋼・鉄筋等)は、以下の複合要因により2020年以降に大幅な価格上昇が続いています。
①原料(鉄スクラップ・鉄鉱石)の価格上昇
国内の電炉メーカーが主に使用する鉄スクラップは、米国・欧州・東南アジアとの国際的な奪い合いが起きており、価格が高止まりしています。高炉メーカーが使う鉄鉱石も、オーストラリア・ブラジルからの輸送コスト上昇と中国の需要増加の影響を受けています。
②エネルギーコストの高止まり
電炉での鉄スクラップ溶解には大量の電力が必要です。2022年以降のLNG・電力価格の上昇が鋼材製造コストに直接影響しており、2026年現在も電力料金の高止まりが鋼材価格の下支え要因になっています。さらにJFEホールディングスは2026年5月の決算の時期に、価格への転嫁を進める考えを示しました(出典:日刊工業新聞 ニュースイッチ 2026年5月)。円安・エネルギーコストに中東地政学リスクが加わり、鋼材の値上がり圧力はさらに強まっています。
③円安の影響
輸入原料の多くはドル建て決済です。円安が続く局面では輸入コストが上昇し、製品価格に転嫁されます。2024〜2025年の円安トレンドは鋼材価格の高止まりに直結しています。
銅(銅線・電線・配管材)はなぜ上がるのか
銅は建築・電気設備工事において欠かせない素材です(電線・給水管・空調配管等)。2024〜2026年の銅価格高騰には特有の構造があります。
①EV・再エネ普及による需要爆発
電気自動車(EV)1台には従来の内燃機関車の3〜4倍の銅を使います。世界的なEV普及・太陽光パネル・風力発電の拡大も、銅の需要に関わっています。国際銅研究グループ(ICSG)の2025年10月の見通しでは、精製銅は2025年に約18万トンの供給超過、2026年に約15万トンの供給不足になるとされています。
②主要産地(チリ・ペルー)の生産減
世界の銅の鉱山生産の約4分の1を担うチリ(米国地質調査所の推計)では、鉱山品位の低下・水不足・政治リスク(資源国有化議論)により生産量が伸び悩んでいます。ペルーでも地域住民との紛争で鉱山が操業を止めることがあり、供給側の構造的な制約が価格を押し上げています。
③先物市場の投機的需要
LME(ロンドン金属取引所)での銅先物取引には、実需以外の投機的な資金も流入しています。特に2024年以降、米ドル高・地政学リスクに対するヘッジとして銅が買われる局面が増えており、実需を超えた価格上昇が起きています。2026年の中東情勢も、調達の不安として市場で意識されています。
木材(製材・合板・集成材)はなぜ上がるのか
2021〜2022年に「ウッドショック」として知られた木材の急騰は一時落ち着きを見せましたが、2026年現在も構造的な高止まりが続いています。
①輸送コストの高止まり
木材の多くは米国・カナダ・欧州・東南アジアからの輸入品です。コンテナ輸送費は2021年のピークから下がったものの、2024~2025年の中東情勢(紅海ルートの迂回)による運賃の上昇が、再び輸入木材の価格を押し上げました。2026年の中東情勢による燃料費と輸送費の上昇も、輸入の費用に表れています。
②国産材の供給体制の遅れ
国産材(スギ・ヒノキ)は植林から40〜60年後の収穫期を迎えており、供給量は増加傾向にあります。しかし製材・乾燥・加工の処理能力(製材所・乾燥施設)が需要に追いつかず、国産材に切り替えても供給制約が解消しない状況が続いています。
③建設需要の持続
国内では非住宅木造建築(CLT・LVL活用の大型木造)の需要が増加しており、住宅向けだけでなく商業・公共建築向けの木材需要も伸び続けています。この持続的な需要が、価格の下方硬直性につながっています。
経営者が今すぐできる対策——3資材別の具体的アクション
- 鋼材:建設物価・積算資料の鋼材の単価を月1回確かめ、需要期(春・秋)前の先行発注を定例化する。スクラップ価格と電力料金の動向が鋼材価格のリーディングインジケーターになります。
- 銅:LMEの銅先物価格を週1回確認する。電気設備工事の案件では、銅線・配管材の発注を着工の3〜4週間前に確定させることで価格変動リスクを下げられます。銅管の代替としてアルミ管・樹脂管(PEX管等)が適用できる工種では代替材の採用を検討します。
- 木材:国産材(スギ・ヒノキ)メーカーとの直接取引ルートを確認する。輸入材一辺倒の調達から国産材・エンジニアリングウッドへの切り替えを検討することで、輸送コスト変動の影響を軽減できます。
値上がりに備える契約の決まり——2024年12月施行の改正建設業法
資材の値上がりは、調達の工夫だけでは吸収しきれないことがあります。2024年(令和6年)6月14日に公布された改正建設業法(令和6年法律第49号)のうち、資材の値上がりに関わる規定は2024年12月13日から施行されています。建設工事の請負契約では、次の3点が決まりになりました。
- 契約書に「変更の方法」を書く:請負契約書に記載する事項に、価格等の変動または変更に基づく工事内容の変更・請負代金の額の変更と、その額の算定方法に関する定めが含まれています(建設業法第19条第1項第8号)。
- 契約の前に「おそれ情報」を知らせる:建設業者は、主要な資材の供給の著しい減少や資材の価格の高騰など、工期や請負代金の額に影響する事象が起きるおそれがあると認めるときは、請負契約を結ぶまでに、注文者へその旨を状況の把握に必要な情報とあわせて通知しなければなりません(同法第20条の2第2項)。対象の事象は、天災その他不可抗力により生じる「主要な資機材の供給の不足もしくは遅延または資機材の価格の高騰」などと定められています(建設業法施行規則第13条の16第2項)。見積書を作るときは、その情報を書いた書面を見積書に添えて交付します(同規則第13条の17第2項)。
- 起きたときは協議を申し出られる:通知をした建設業者は、契約の後にその事象が起きたとき、契約書の定めに従った工期や請負代金の額などの変更について協議を申し出ることができます。注文者は、申し出が根拠を欠く場合など正当な理由がある場合を除き、誠実に協議に応じるよう努めなければなりません(同法第20条の2第3項・第4項)。
本文で見た鋼材・銅・木材の値動きは、見積りの段階で「おそれ情報」として書面に残しておくことが、契約の後に協議を申し出るための前提になります。見積書の書式に、主な資材の値動きを書く欄を設けておくと、通知の漏れを防げます。
出典:国土交通省「建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について」(2026年10月8日確認)・e-Gov 法令検索「建設業法」(2026年10月8日確認)・e-Gov 法令検索「建設業法施行規則」(2026年10月8日確認)
この記事は一般的な情報をまとめたものです。法令や制度は変わることがあるため、最新の内容は公表元で確認し、個別の判断は窓口の役所や専門家(行政書士・社会保険労務士・税理士など)に相談してください。
まとめ:3資材の値上がり構造と経営対策の要点
- 鋼材:鉄スクラップ・電力・円安の3重要因。先行発注と仕入れ先多元化で対応
- 銅:EV需要・産地供給制約・投機需要の3重構造。早期発注と代替材リストの整備が有効
- 木材:輸送コスト・国産材加工能力・継続需要の3重因子。国産材・エンジニアリングウッドへの切り替え検討が長期対策
値上がりの構造を理解することで、発注者への価格説明・契約条件の設定・資材調達のタイミングが変わります。許可業者として信頼性を高めながら経営を安定させるために、建設業許可業者の検索ページで自社・連携先の許可状況を定期確認することも重要です。都道府県別の建設業情報・手続きガイドでは地域別の建設市場動向も確認できます。
よくある質問
Q. 資材価格の高止まりはいつ終わりますか?
A. 先の値動きを言い切ることはできません。鋼材はエネルギーの費用と円相場に、銅は EV などの需要と鉱山の生産に、木材は輸入の運賃と国産材の供給に左右されます。建設物価・積算資料の単価を毎月確かめ、見積りと契約に反映できるようにしておくことが大切です。
Q. 発注者に資材高騰を理由とした追加費用を認めてもらうにはどうすればいいですか?
A. 公共工事であればスライド条項(国交省標準約款第26条)に基づく協議申し出が有効です。民間工事では、契約書に「資材価格変動条項(エスカレーション条項)」を盛り込んだ上で、市場単価の変動データ(建設物価・積算資料等の公表単価)を根拠として提示することが説得力につながります。「感覚的に上がった」ではなく、客観的なデータを示すことが交渉の基本です。
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値上げを施主に伝えるときは、契約の前に渡す1枚の見本が使えます(2024年12月施行の改正建設業法の「おそれ」の通知と、根拠に使える物価資料つき・千葉県の例)。資材の値上げを施主に説明する1枚
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